時の流れは速いもので、"新たなるファイレクシア/New Phyrexia"の発売から早3年と半年が過ぎてしまった。
しかし、あの衝撃と、そしてその後に続く苦痛の時代を忘れることは-少なくともLegacyというフォーマットが存在する限り-忘れることは無いだろう。
長い間、そのフォーマットは進化に、変化に飢えていた。
"ゼンディカー"というエキスパンションが齎した「対抗色フェッチランド」は多色化を極めるエターナル・フォーマットにおいて絶大な歓迎を受けた。
続く"ワールドウェイク"では(今となっては信じられない話かもしれないが)「何もない」と思われていた。
更には"エルドラージ覚醒"もだ。
後二者が生んだ怪物達、即ち《石鍛冶》《ジェイス》《エムラクール》が評価されるのは、もうしばらく後の出来事だったのだ。
後に「タルモゴイフを超える最高の2マナ」とさえ呼ばれた白き四天王はその最高の相棒がこの世に生れ落ちるまで暫くの間なりを潜めていたし、
《目くらまし/Daze》が狂ったように飛び交うレガシーにおいて4マナのPWを使う事は躊躇われた。ましてや4枚なんてありえない。
そして既に《実物提示教育/Show and Tell》《騙し討ち/Sneak Attack》という最高の舞台が用意されていた空の神は…これも矢張りメタの最強角を担う為には殴りかかる《ヨーグモスの取り引き/Yawgmoth’s Bargain》が足りなかったのだ。
話を戻そう。そして時は2011年4月。
心無い一部の人々の手で暴露されたフル・スポイラーを見て、全てのレガシー・プレイヤーに激震が走った。
もう言うまでもないだろう。
《精神的つまづき/Mental Misstep》である。
たった2ライフというちっぽけな代償で、ありとあらゆる1マナが、MtGというゲームを支えてきたカードが、
《剣を鍬に/Swords to Plowshares》が
《暗黒の儀式/Dark Ritual》が
《ゴブリンの従僕/Goblin Lackey》が
《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》が
《霊気の薬瓶/AEther Vial》が
《思考囲い/Thoughtseize》が
《野生のナカティル/Wild Nacatl》が
簡単に否定された、その瞬間であった。
初めてこれを見た時感じたことは忘れない。
「ついに、《不毛の大地/Wasteland》級が来た!」
1G 4/5のバニラを禁止するだのなんだのはその瞬間くだらないものに成り下がった。
強い、とか壊れている、とかではない。
Wastelandに続く、2人目の「パラダイム定義者」が現れたのだ。
そして発売されるや否や、大方の予想通り狂った"Misstep旋風"が吹き荒れ、環境は死んだ。
これだけは断言する。あの時レガシーは一度死んだ。
暗黒時代は長くは続かなかった。
誰もが予想した通り、それは沢山の傷跡を残して、追放された。
そして時が少し流れ…新たなるレガシーの時代が始まる。
Misstepの反省を踏まえたかどうかは知らないが、続く"イニストラード"ではその後定番となる、しかし楽園を追われることなく一線で輝き続ける素晴らしいカード達が立て続けに印刷されることになる。
《秘密を掘り下げる者/Delver of Secrets》
《瞬唱の魔道士/Snapcaster Mage》
《ヴェールのリリアナ/Liliana of the Veil》
《聖トラフトの霊/Geist of Saint Traft》
どれも本当に素晴らしいカードばかりだ。
オーバーパワー過ぎないか、って?
そんなことはない。レガシーは業の深いフォーマットだ。
直ぐにこれらのスーパースター達は(正確には《リリアナ》は死儀礼の登場を待つことになるが)レガシーの血肉となった。
その後も、レガシー・フォーマットを揺るがす新たな顔ぶれが、絶え間なく登場した。
《スレイベンの守護者、サリア/Thalia, Guardian of Thraben》
《未練ある魂/Lingering Souls》
《終末/Terminus》
《グリセルブランド/Griselbrand》
《死儀礼のシャーマン/Deathrite Shaman》
《突然の衰微/Abrupt Decay》
なんかがその代表格だろう。
そして、個人的には大人しかったように思う"テーロス"ブロックを経て、再び爆弾が舞い降りる。
その名は《宝船の巡航/Treasure Cruise》
そして《時を越えた探索/Dig Through Time》。
正直言うと、最初に見た時に強いと感じたのは後者だった。
漫然と3枚引くより、7枚という勝負を決定づける枚数から厳選された2枚を選ぶ方が遥かに強力だ、と。
UUというボトム・コストが気になるが、《対抗呪文/Counterspell》だって現役で使われているぐらいだから、1点のライフを追加すれば多くの場合に《対抗呪文/Counterspell》になれる超・《衝動/Impulse》が使われない筈がない、と。
そうだ、何なら「奇跡」デッキの《対抗呪文/Counterspell》を全てこちらに取り換えてしまおうじゃないか…と…
しかしこの予想は裏切られた。
確かにDTTは強力で、コンボ・デッキからコントロールまで幅広く愛されるカードに違いはなかったが、実は本当にショッキングだったのは《宝船》の方だったのだ。
そんなことはない、と思われる方は是非、どちらを禁止にすべきかという議論で多数決を取ってみてほしい。
きっと多くが「《セラの報復者/Serra Avenger》みたいな《Ancestral Recall》」をご指名してくれることだろう。
では、この3代目アンリコは禁止を免れ得ないのだろうか。
個人的には、カードパワーを理由にそうなることはない、と思っている。
理由は簡単。
こいつは強力でレガシーの顔になれるカードだが、「定義者」ではない。
本当に追放されるべきは、ただそれが環境に存在するというだけの理由で、誰もがそれを使うか、それに対抗することを考えるような連中だ。
《不毛の大地/Wasteland》は行き過ぎた環境の多色化にいつだって歯止めをかける必要悪であり調整者の役割を兼ねているが、《つまづき》は全てのプレイヤーがこれを使うか《モックス・ダイアモンド/Mox Diamond》を使う事を強制する異端者であり、その罪はあまりにも大きい。
所詮は《瞬唱の魔道士/Snapcaster Mage》だとか《真の名の宿敵》止まりというのが概ね正しい評価だろう。
とは言え、この2枚も十分に、十分すぎる程強力である。
後者はレガシーでしか使用できないが、前者はスタンからモダンから使えるあらゆるフォーマットで大活躍している。
そんなカードが、ついこの間までパックを剥けばハローしていたのだから驚きだ。
では、WotCはどこに向かっているのだろうか。
古の怪物たちは最早見る影もなく、《Force of Will》の援護を受けて殴り合うのは新枠の生物たち。
そしてその巧みな技巧も、強力なPW達や装備品、そして《宝船》のような新たなるアドバンテージ・ソースに浸食されつつある。
そうこうしている内にレガシーのモダン化は加速し、いつか殆ど代わり映えのなくなる日も来るに違いない。
そこに残るのは何か。
レガシーを、レガシーたらしめるものとは何か。
そう、それは《渦まく知識/Brainstorm》《Force of Will》《剣を鍬に/Swords to Plowshares》のような古の基礎呪文達であろう。
そして、自由な構築とそれに対抗するデュアルランド、《不毛の大地/Wasteland》なのだ。
どんなに生物が強くなり、どんなに強力なコンボ・デッキが生まれようと、プレイヤーは3枚引いて2枚戻し、0マナでカウンターを撃ち、あらゆる脅威の肉体をも1マナで排除する。
素晴らしきかなエターナル。
モダンを追われたカードを寄せ集めてエターナルを気取るのはもう辞めだ。
3枚引いて2枚戻して0マナでカウンターして、3枚引かれて2枚戻されてカウンターされて1マナで排除する…しようとしてまた打ち消される。
でもってその後3ドロー。今度は2枚戻さなくていい。相手が土地を片付けるのが見える。
良いじゃないか。
これはレガシー・プレイヤーにのみ許された最強の戦略であり、この環境を定義するものだ。
それを使わずして何を使う。
許されたズルは徹底的にやれば良いのだ。
信条も何もないのかって?
勝つ為に必要なことを、正しい選択を、やる。
それが「固執」ではない本当の「信条」だ。
あ、でも流石にクロックパーミッションが強すぎるからCruiseも危ないかもね(熱掌返)
コメント
この部分は非常に納得できます。特に今のモダンは宝船使い得だなと感じます。いずれBANされるだろうとはいえ、現時点では「許されたズル」ですからね。
しかし毎ブロック何かしらエターナルに影響を与えていると思うと最近のカードは強いですね。とても面白い記事でした。
そう言っていただけると久々にちゃんと推敲して文章書いた甲斐があります。
これからも年に1回ぐらいは真面目な記事を書いていきたいです。
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